徒然なるままに。今日もまったり、けせら・せら♪
kirakira
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kirakira
kirakira
01:47:54
図書館の中に外での轟音が響き渡る。
シャイナもカノンも予想はしていたが、魔法同士のぶつかり合い。図書館全体を揺らすような大きな音が外から届いていた。
音がやみ、嵐の中とは思えない一瞬の静寂が訪れる。カノンもシャイナも少しの変化ももらさぬように、外の様子に耳をすませていた。

その時だった・・・。
図書館の玄関がギィッと鈍い音を立てて開く。
シャイナもカノンも番犬が見事侵入者を追い払い、今日も一日何事もなく終わると予想していただけに玄関には驚愕の眼差しが降り注ぐ。漆黒のローブをまといしその「来館者」がゆっくりとした、だが、着実な歩みを図書館の中へと進めてくる。


図書館の玄関の正面にかまえるの司書台の前に男が立つ。
前訪れた時よりも幾分か高く見えるのは、カノンの男に対する恐怖によるものだろう。カノンの倍はあるだろうその高い背丈から、見下すかのようにカノンを見下ろした。


「やぁ、小さな司書さん。」

「あいにく、今日は図書館は閉館日よ。」

男のあいさつに、皮肉をたっぷり交えて答える。あの人違っていたのはカノンの視線が手元の本に注がれているのではなく、男の方にしっかりと向いていることだ。

「番人がいなかったかしら?今日は閉館日で「望まないお客さん」が入らないように、門を守ってくださったはずなんだけど・・・。」

いつにもまして、鋭い瞳がきっと男に対して向けられた。男はそれをみてもたじろぐ様子も見せずににやりと笑って、

「さぁ、そんなものは見当たらなかったな。この雨だ、雨宿りでもしているんではないか?」

「うそつきなさい!」

カノンが激昂する。カノンの様子の変化に、怖い怖いと男の口が動く。

「しつけのなっていない犬なら一匹外にいたな・・・。あまりにも吠えるのでほえないようにしつけをしてやったよ。」

不気味な微笑みが男の口元からカノンを覗いている。カノンはその言葉に目が丸くなった。

「今頃すっかりおとなしくなっておねんねしているだろう、もっとも永久にさめることはないだろうがな。」

ニヤッと、不気味で冷酷かつ残酷な微笑みがカノンを向けられる。あまりにも予想外な事実にうそ・・・とカノンの口から洩れる。

「そんなわけないわ!あの子がそんな簡単にやられるわけないんだからっ!おまえなんかに・・・お前なんかに!!!」

カノンの顔が紅に染め上がる。深い青で染まった瞳にはうっすらと涙がたたえられている。悪態をつき合う仲、ののしり合う仲。しかし喧嘩するほど仲がいいというように、2人の間には確かに互いを認め合う、絆に似た感情がそこにはあった。


「あとで確認してくるがいい。冷たい冬の嵐の中、さぞ安らかに眠っているだろう・・・。」

シャイナが優しくカノンを抱きしめる。こらえきれなくなった涙がカノンの小さな幼い瞳からとめどなくあふれだした。青い瞳を真っ赤に燃やし、数少ない自分の友と呼べる者を失った悲しみから必死に逃れようとした。

「そんなことより。」

男の冷酷なセリフがカノンをはっとさせる。

「部屋番号21の k-3068~3070の本を渡してもらおうか・・・。」

抑えきれない悲しみが、男に対する憎悪と憤怒へと変わった。親の仇を見るように、怒りをたたえて地獄の鬼のような目つきが男に対して向けられる。

「さっきもいったでしょ!図書館は今日はお休みよ!!!」

カノンの怒号が図書館にこだまする。カノン・・・と優しくシャイナになだめられているが、その言葉はカノンのこだまにかき消されてしまった。

「勘違いしているな、小さな司書さん。借りに来たんではない、奪いに来たのだ!!!」

バサッと漆黒のローブが宙を舞う。その残酷さからは考えられぬ、精悍な顔立ちが目の前に現れる。金色の装飾を施された禍々しい巨大な杖を持ち、顔に不思議な紋章を刻んだ青年の姿がそこにはあった。


「あいにく私も今日は司書業はお休みだわ!今日はね、図書館の大掃除の日なのよ!!!」


カノンが魔導書を構える。臨戦態勢は整った。司書台からふわりと舞でると男の前に果敢にも立ちふさがる。


「カノン、図書館全体は時間が止まってる。少しくらい大暴れしても傷なんかつきやしない。」

「図書館の司書の仕事が、本の整理だけではないことを教えておやり。」


ずいぶんと好戦的な保護者がいたものである。時代が時代なら勇猛な怪物両親になれただろう。
そのセリフにちらっとシャイナのほうに目をやって、ありがとうと微笑みを返す。


「ナナコ、最初から本気で行くわ。詠唱補助を!!」

「かしこまりました!」

詠唱補助・・・使い魔の、魔法使いの戦闘における重要な仕事である。魔法を唱えるには精神的な集中を高めるために呪文を唱えることが多い。魔法使いの最大の弱点である、攻撃の隙の原因がこれだ。精神的な集中を欠いた魔法では魔法の力を最大限に発揮することができない。使い魔は魔法使いとシンクロすることでこの詠唱する時間を短くすることができる。使い魔によってその力の大きさはさまざまだが、カノンとナナコの場合はその詠唱時間を0にするところまで可能なのだ。


ナナコが首飾に転身するとカノンはそれを受け取ると首から下げた。

「力づく・・・はあまりは好きではないのだがな。そちらがその気なら力ずくで奪い取ってやろう。」

「やってみろ!おまえなんかに禁忌は渡さないんだから!!」


先手を取ったのは男のほうだった。杖を両手に構えるとその鋭い眼を閉じて精神を研ぎ澄ます。

「呼びだしたるは荒らぶる水精。水、龍の如き勢い以て森羅万象を深淵の水底に沈めよ!」

「禁呪:ヴァンフレイド」

図書館の床からすさまじい水量の筋が何本も吹きあがる。吹きあがった水の筋は束になり、龍のようにその体をくねらせカノンに容赦なく襲いかかる。

「月は陽の鏡。押し寄せる厄災を跳ね返せ!」

「月精:八汰の手鏡」

カノンの前に光の魔法陣が展開される。小さな円形魔法陣には魔法文字で装飾され、月齢を表す象形文字が魔法陣の内周を飾っている。押し寄せる大水がその魔法陣に吸い込まれると、すさまじい勢いで水流が男に向かって跳ね返る。水流が波状の攻撃となり術者に牙をむき、図書館の床を激しく揺らしながら突撃する。男は襲い来る水流を後ろへ後ろへとかわし、態勢を整えようとしている。間髪をいれずにカノンが魔法を唱える。

「放たれたる矢流星のごとく、罪を散らす雨となれ。」

「射手座:スターダストストーム」

虹色に煌めく流星の矢が、怒涛の勢いで態勢をまだ立て直しきれない男に襲い来る。その様まるで虹色の滝のように、煌めく流星の矢が男に容赦なく突き刺さる。男は態勢を立て直しながら防御用の魔法陣を展開するが、その矢の勢いを殺しきれず、流星の矢に飲まれてしまった。
全身の虹の矢を浴びて、ヤマアラシのような風貌をカノンの前にさらした男は、ゆっくりと苦しそうに起ちあがる。勝負はあったかのようにみえた。が。


「どうやら実戦経験もある程度はあるらしい。これほど戦える相手と邂逅し、私はうれしく思うぞ・・・。」

「名を・・・聞こうか。小さな司書さん。」

満身創痍な風態でも男の顔からは笑みがこぼれた。全身からおびただしい量の血が滴りながら不敵に笑うその男の姿にカノンは旋律を覚えた。


「カノン・A・ノーレッジよ!」


恐怖にその身をかられながらも立派に自分の名前を相手に告げる。
ふっと男が笑ったかと思うと、そ怪我からは考えられない足取りでその身を起こしカノンに向きなおり、魔導書に手をかざす。

「時間索引:去りし日の自我」

「!?」

カノンの見ている前で男が見る見るうちに回復していく。先ほどから滴っていた大量の血液は一滴残らず男の体の収まるべきところに収まり、突き刺さった矢は一本残らず消滅してしまった。まるで映像の逆再生のように、男はカノンと戦う以前の姿を取り戻したのである。


「お嬢様!やつは時操術の心得があるんじゃ・・・。」

「うろたえない。保存した過去を現在に上書きしただけよ!禁書を狙うようなやつが禁断の魔法に手を出してないわけがないわ。」

首に下がる首飾からナナコの声が聞こえてくる。カノンは男から視線をそらさず、ナナコに答える。
男はくるっと体を翻し、カノンに背を向ける。

「戦いのさなか、背を向けるなんてずいぶん余裕ね!今度は時操術を使うまでもなく、地獄に送ってあげるわ!」

カノンが魔導書に手をかまえると、男は不意にカノンのほうへ振り返る。
その悲哀に似た感情を秘めた男の瞳に、カノンは思わずたじろいてしまう。

「小さな司書さん、いやカノン・・・。私の手でお前を葬らなければならないこと、大変悲しく思う。」

「小さな小さな大魔導師よ、せめて苦しみなく眠らせてくれよう。」

男が魔導書から一枚のしおりを取り出した。

「勝手に殺さないでくれるかしら!私にはまだとっておきが・・・。」


言いかけたカノンの身にかつてないほどの戦慄が走る。歪んだ感情をはらんだ魔力が空間をゆがめる。男の姿がまるで針金のようにぐにゃぐにゃと曲がっているように感じる。感じたことのない、言い知れぬ不安が思わずカノンを後退させる。


「いけない、ナナコ!月の大結界を!!」

「は、はい!!」

カノンは首飾に向かって叫んだ。と同時に男の手にしたしおりがはらはらと砂のように崩れていく。

「過去の再現・・・。」

「森羅万象:宙(そら)の目覚め」

男がそう唱えると男とカノンを含む空間が上も下もわからない、真っ暗な空間に包まれた。その暗い空間の中でも視認できる、光も通さないような漆黒の球体が、空間の中心に出現した。

「お嬢様!準備が整いました!」

「早くしないと間に合わない!・・・月の精、私の呼応に応じて私を現世から隔離せ・・・。」


漆黒の球体が周りの空間ごとその中心に引きずり込もうとしているのがわかる。闇が闇に吸い込まれる不思議な感覚、前も後ろもわからないが明らかに周りの環境が闇へと飲まれていく。カノンもその巨大な引力に抵抗を試みるが、抵抗むなしく魔導書ごと黒い球体にすいこまれた。


「そして銀河は目覚める。その産声、森羅万象に轟かせよ!」


男の吐いたセリフより一歩早いか、カノンを飲みこんだ球体から閃光がほとばしり始める。その表面に細やかな亀裂が入り、まるで雛が自分の殻を力強く破るかのごとく、球体は物凄い衝撃とともにはじけとんだ。



飲みこまれていた空間が元に戻る。
すさまじい引力で湾曲し、圧縮されていた空間は、自分を縛っていた鎖から解き放たれたかのようにすさまじい衝撃を生みながら収まるべき場所に戻っていく。漆黒の球体から吐き出されたきらきらとした破片が、暗い背景にちりばめられてまるで星の海が広がるかのように、図書館全体に広がっていく。


暗さに目が慣れていくと、ぼろ雑巾のようになったカノンがかすかなうめきをもらして、床に横たわっているのがわかる。


「うぅ・・・。」

男が床に横たわるカノンに近づき、驚きの表情でカノンを見つめる。

「あれだけの魔法をくらってまだかすかに息があるとは・・・。あの状況で月の大結界を完成させたか。もう少し遅ければ、完全にかわされていたかもしれないな。」

男が独り言のように呟く。ぼろ雑巾のようになった孫娘の姿を確認すると、シャイナがカノンのそばに駆け寄ってきた。

「カノン!!!!!!!!」

「ご老人、悪いことは言わない。無駄な抵抗はやめて、私の望みをかなえてほしい。そうすれば私はあなた方の命を奪うようなこと話しない・・・。」

男が静かにシャイナにささやくと、シャイナは体を小さく震わせながら、つぶやいた。

「結界を・・・解除したわ・・・。どうぞ持って行って。」

「おばあ・・・ちゃん・・・だめ・・・。」

今にも切れそうな声でシャイナにカノンがささよくと、シャイナはいつもより一層強くカノンを抱きしめた。


「私のような老体には禁忌を失うことよりあなたを失う方がつらいのよ・・・カノン。」

「大丈夫、すぐに治してあげるからね・・・。」


男は抱き合う親子のような二人をしり目に、希望の禁書の間に歩みを進める。
無造作にドアを開け放つと何の迷いもなく3冊の本を手に取り、その懐にしまった。
シャイナが気付いた時には、男の姿は図書館のどこにもなかった・・・。
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kirakira
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22:38:42
カノンとシャイナが結界を強化しているころとほぼ同時刻。
ケルベロスと男との激闘が火ぶたを切って落とされた。
ケルベロスの鋭い牙と爪が男をちぎろうと向かっていく。
だが男はケルベロスの攻撃をいともたやすく、紙一重でかわしていく。
空中を舞う木の葉をとらえるがごとく、ケルベロスの攻撃は空しく空を切る。
木の葉であればある程度軌道を予想し、落ちる木の葉の動きに合わせて先の先をとれるが、相手は生きて意思のある生物。ケルベロスは男の軌道をなかなかとらえることはできない。



「どうやら地獄とはだいぶ生ぬるいところらしい。これでは簡単に地獄から脱出できるではないか。」


ケルベロスに向かって男が軽口をたたく。男は余裕の姿勢を崩さない。


「なめやがって・・・。」


なめられた怒りと攻撃が思うように届かないもどかしさ、自分らの予想を超える相手の器量による焦燥。ケルベロスの、ぎりぎりと口をうならせる表情からはいろいろな感情が読み取れる。


「兄貴、もう出し惜しみしてる時間はない!これ以上なめられては俺たちの沽券にかかわる!とっとと魔法で焼きつくしてしまおう!」


真ん中の首が左の首に吠えた。


「やむを得んか。この周りの樹海が火の海になろうと・・・。ここは死守せねばならない・・・。」


ため息をついて左の首がうなだれる。ケルベロスとしても図書館の周りを破壊するのはあまり好ましく思っていないようだ。


「幸い見ての通り暴風雨だ。火の海になっても鎮火するには時間がかからないだろう。我々をなめた態度、死んで後悔させてやる!」



ケルベロスの6つの瞳が紅に染め上がる。その怒りの満ちた瞳がその男に向けられようと、男から余裕の表情が消えることはなかった。


「ほう・・・私と魔法のくらべっこか。面白い!」

「後悔させてやるよ!おまえは地獄行き・・・生ぬるいかどうか、その身を以て確かめるといい!」


一番右の首が咆哮を上げる。嵐の中の激しい雨音をかき消すかのように、樹海一帯に響き渡る。



「いでよ!地獄の門!!」


咆哮を上げると、ケルベロスの背後の巨大な禍々しい地獄の門が開かれた。漆黒の木でできた木製の巨大な門には、扉の取っ手が髑髏で装飾を施されている。扉の枠の金縁全体に、これもまた漆黒の文字で何かが書かれている。地獄の言語だろうか、地上では使用されていない、象形文字のような字だ。門の周囲には、脱獄を試みた犠牲の骸であろうか、黒く焼け焦げた白骨が山のように積み上がっている。
ケルベロスの激しい怒号に反応し、召喚された地獄の門が鈍い音とともに前に開かれる。


「地獄の深部に根付く罪人の大樹、その枝にたわわに実るは地獄の業炎を宿す禍つ果実。罪人、その身に背負う罪の数だけ果実を食み、その業炎に身を焼かる。紅き果肉はその身を業火で包み揚げ、したたる果汁は身をうちより焦がし苦しめん。罪人の大樹ジャクムよ、今我に立ちはだかる禍つ罪人に地獄の裁きを与えその身を地獄に堕としたまえ!」


「地獄の焔:罪人の果実」

完全に開ききった地獄の門から、炎で熱され赤黒く変色した無数の鎖が男に向かって伸びる。男は自身の前に展開した魔法陣で鎖から身を守ろうと試みるが、魔法陣は破壊され無数の鎖にからめ捕られてしまった。


「・・・地獄の鎖か!!なるほど、罪人を縛っておくにはちょうどいい責め苦だなっ!」


男を縛った地獄の鎖は男を地べたに這いつくばらせる。鎖で男が身動きができなくなると、開かれた地獄の門から黒い羽根をもち、頭には鋭い2本の角をたくわえた、鬼のような形相をした真紅の悪魔が這いつくばらせた男を起たせて、門の正面に体を向けさせた。


「ほう、これが噂にきく、ジャクムの果実を罪人に飲ませるという悪魔か。私に果実を飲ませようというのか」


鎖に縛られ、悪魔に体を固められ、自由を失った状態でも男から余裕が消えることはなかった。相当の自信があるのだろうか、男の表情からは笑みすらもこぼれおちる。




地獄の門の先は吸いこまれるような深い闇。真紅の悪魔が男をがしりと固定したかと思うと、深い闇の中で悪魔より紅く、地獄の門よりも禍々しい雰囲気を醸し出した、一つの紅い鉄球のような物体が門の前に現れた。鉄球はくるくるとゆっくり不規則にその場で回転しながら、男に狙いを定めるかのようにとどまっている。


「罪人を焼きはらえ!ジャクムの果実!!」


ケルベロスの怒号が大地を揺らす。それと同時に紅く燃え盛る鉄のような球体が男めがけて飛んでいく。どうやらこの物体がジャクムの果実のようだ。風を切り裂く速度で男に向かっていき、男の腹に命中したかと思うと、あたりを焼きつくすかの如き火柱が一帯を包みあげた。火柱とともに響き渡る爆音は、あたりの樹海を吹き飛ばし、さきほどより吹き荒れていた嵐は一瞬の静寂を見せる。


ぽつぽつと・・・。雨粒が火柱で起ち上った煙と火の粉を落ちつける。時間の停止した図書館こそ無事ではあるが、図書館を包んでいたあたり一帯の樹海はすっかり焼け野原になっている。雨のおかげで周囲が落ち着いてくると、鎖で縛られた男の様子がわかるようになってきた・・・。


「ハハッ、想像したよりもぬるいな・・・。私の身を焦がし、焼き払うには少々火力が足らなかったらしい・・・。」


ぼろぼろと縛っていた鎖が崩れ、男がローブについた鎖の破片やら舞い散る火の粉やらを落としている。


「何!?」


ケルベロスは驚きの表情を崩せなかった。確かにジャクムの果実は男の腹をとらえ、周囲一帯ごと焼き払ったはずだった。いくら魔術師といえど、その炎から無事に還ることなど不可能である・・・はずだった。
地獄に落ちる魔術師など腐るほどいた。たがジャクムの断罪から逃れ、地獄から脱出できるものは一人としていなかった。ジャクムの裁きを受けた後に残るものは人の形を少しばかり残した、黒々とした黒炭の山。魔術師とて、例外はない・・・はずだった。この時までは。


男はにやりとケルベロスに向きなおる。


「やはりずいぶんと地獄は生ぬるいところらしい。私が地獄に行った暁には、地獄の王と国とりに興じるのも一興かもしれんな。」

ひるむほうは男でなくケルベロスのほうであった。この時からケルベロスの脳裏には負けの二文字が焼きついてしまった。男はそれを見透かしたように言い放った。

「そうだ、これは魔法の勝負だったな。」

「かみつく犬にはしつけが必要らしい。もう私にかみつくことがないように、その身を以て思い知らせてやらねばならないな・・・。」






「格の違いというものを!!!」








男が叫ぶと同時に天が割れ、空を包んでいた分厚い雲が引き裂かれた。雲の合間から顔を見せるは妖艶な紫に光輝く巨大な魔法陣。あたりはさきほどの嵐の喧噪から一転、静寂に包まれる。代わりに空を割く、雷の轟音があたりを支配した。


「天空より出でし神の剣よ。空割き、地割き、人割き、罪を割きたまえ。」

「神の雷:カルマ」

魔法陣がより一層強く輝く。すると魔法陣の中央から山のように大きな紫電の剣が顔を見せる。ゴロゴロと不気味だが荘厳な音を立てながら、剣がその全貌をケルベロスの前に晒すと、言うが早いか、まさに雷のような速度でケルベロスに向かって飛んでいく。着弾すると同時にあたりは白の世界に包みこまれた。


白の世界から元の世界へと戻ると、ケルベロスは地に伏せていた。体を包む体毛は黒く焼き焦げ、形を保っているのが奇跡のように思われた。


「ほう、あの攻撃を受けても体の形は保っているか。さすがは地獄の門番といったところか。」

「さきほどの言葉、訂正しよう。地獄の番人よ、私の前によくぞ立ちはだかった。」

「地獄に帰って誇るがいい。そして・・・身の程を知るがいい。」


もう返事のしないケルベロスにそう語りかけると、守るべきものもいない図書館の大庭園の門をくぐり男は歩みを進めた。もはや図書館の玄関は、男の前では静かにその扉を開くほかなかったのである・・・。
kirakira
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00:26:41
ボーンボーン
大広間にある柱時計が無機質な音で深夜0時を知らせる。
形だけ流れるとき、すべては繰り返す日常の中でカノンは今日も変わらぬ一日を過ごす予定だった。


変わらぬ姿
流れぬ時間


無限の、時間のよどみの中で、魔導書を読みあさる毎日。
彼女はその生活に満足していたし、またこの無限の円環を壊したくないと、切に願っていた。
来館者のあった日からすでに一週間経過している。その日を除けば、図書館の歴史はすべて一様に繰り返す。
日記にすれば一言。


今日も誰も来ないし、何も起りませんでした。


小学校の日記の宿題としては不十分であるし、読むに値しない日記ではあるが、無限の時のなかでは些細な変化は無きに等しい。毎日ナナコの作るコーヒーを飲み、お気に入りの魔導書に目を落とす。だが、そんな味気のない生活にカノンは確かに充足を感じているのである。


もうこのまま何も起こらないでほしい・・・。
一生、おばあちゃんとのこの「つまらない」生活が続くのであれば私は何も望まない。
禁書がそばにある限り・・・。


カノンの、傍から見ればそのつまらない日常に対する、ほのかな欲望は今日この日崩れ去るのである。
カノンがそれを体験するのはここからさらに3時間24分後の話である。







時計の針が深夜3時を知らせる。
今日は珍しく、冬の大嵐が図書館に訪れていた。
珍しい、今日を日記に書くとすれば数か月ぶりの大イベントね。
小さいころにつけようと思った、今ではほこりをかぶった真っ白な日記帳をぱらぱらとめくり、カノンは自嘲気味に笑った。冬の大嵐。図書館の周辺は冬はだいたい雪が降るか、曇天が広がる天候なので、確かに珍しい出来事ではある。だが、冬の嵐の到来とともにカノンはあの日に感じた寒気を感じていたのであった。



「まさかね・・・。今日も日記が黒くなることはないわ・・・。」
「お嬢様、今日は紅茶とクッキーをお持ちしましたー。」


独り言をぼやいてるそばにナナコがかけよってきた。カノンはありがとうとナナコに目をやると、クッキーを1枚頬張った。今日も変わらない、明日も変わらない。カノンの胸の内には自分に言い聞かせるように、その言葉が永遠と廻っていた。







時を同じくして、図書館の大庭園。
ケルベロスは「偶々」到来した大嵐の中図書館の警備にあたっていた。
地獄の番犬ケルベロス。その強靭な肉体と体を覆う体毛のおかげで冬の寒さなどものともしないが、さすがに濡れるのはいやらしい。大嵐に不平をもらしながらも、嵐の中の、変わった物音に耳をそばだてていた。
足音・・・。こちらに確実に近づいてくる・・・。



「これがばあちゃんのいってた、来館者か。今日はうまい飯が食えそうだ。」


3つ首のうち、真ん中の首がご褒美にでてくるおいしいドッグフードを考えてはよだれを垂らす。


「嵐にものともしない足の歩み、気をつけろ。われわれの想像以上に敵は強大かもしれない。」
「何言ってるんだ、兄貴はいつもそうやって弱腰だ、地獄でも我々を倒して逃げ出そうとした連中なんか一人もいやしなかったじゃないか。今回も同じ・・・、軽く威嚇して、咆哮を上げて、ひるんだすきにがぶりとかじってやればおしまいだ。簡単な仕事じゃないか。」


左の首の弱音に右の首がかみついた。どうやら左から順に兄、次弟、末弟の順らしい。慎重な兄、食いしん坊の真ん中、そして傲慢な末弟。一見ちぐはぐな兄弟ではあるが、微妙なバランスがあるだろう、妙にうまくいくらしい。


「そうだといいがな・・・。来たぞ!」



月明かりのない嵐の夜、庭園を照らす照明によって以前訪れた男の姿が現れた。
以前と同じ漆黒のローブを深くかぶり、顔を確認することはできない。男はケルベロスに気づくと俯き加減だった顔を少し上げ、視線をケルベロスに移した。



「おやぁ?今日は門番がいるのかね?それとも、ただのわんちゃんかな?」


ケルベロスを挑発するかのように薄気味悪い笑いを浮かべて、口にした。


「なめやがって・・・。」
右の首が頬に皺をよせ、唸り声をあげながら、男を一瞥した。男の顔色に変化は見られなかった。


「我々は館長シャイナとの契約により、図書館に何人たりとも通すことのないように言われている。悪いことは言わない、引き返せ。そうすれば我々がお前に危害を加えることはない。」


男はケルベロスを見つめながら鼻で笑った。


「そのセリフから察するに、この図書館に入ろうとすれば私の首が千切れてしまうようなものいいに聞こえるが・・・。間違ってはいないかな?」


男がわざとらしくケルベロスを挑発するように言うと、ケルベロスを見下すかの如く視線をケルベロスに差し込んだ。


「兄貴、どうやらこいつ、ドッグフードになりたいようだぜ?とっとと首をもってって、ばあちゃんのうまい飯ととっかえよう。」


男が親指をたてて、首の前で一文字を切った。



「ドッグフードか。・・・面白い!」



走り出した男のローブが強くはためく。嵐の大風も相まって、バタバタと激しくローブが揺れている。


「どうやら引き返す気はないらしい。・・・いくぞ!」



一番左の首の号令のもとケルベロスが臨戦態勢に入った。欲求不満だった巨大な爪と牙が男に襲いかかった。
時計が3時を告げてから24分後の話である・・・。




「おばあちゃん・・・。」


図書館の司書台から立ち上がったカノンが、シャイナの部屋に駆け込んだ。どうやら胸騒ぎが的中したことがわかったようだ。シャイナもそれに気づいてるらしく、カノンを抱きこむとカノンの顔に視線を落とした。


「万に一つも、ケルベロスが負けるということはないだろうけど・・・。万が一のために私たちも戦う準備をしなくちゃね。」


シャイナのセリフにこくりとうなずくと、カノンは館長室を後にした。
カノンお気に入りの魔導書である、ミュウの大辞典を抱えて、図書館の司書台へと足早に戻る。
司書台の引き出しの中から魔導書の管理簿を取り出すと、手早く禁書の間に施されている結界の魔導書の管理番号を調べ上げた。さすがは司書、本の管理はお手の物だ。


「ナナコ!管理番号 禁/23-3-55732の本を持ってきて!」

「すぐにお持ちしますぅ!」

カノンの珍しく緊迫した声が図書館に響く。ナナコも状況が状況なだけに、緊張した面持ちで、本の収納されている本棚へと急ぎ足で向かう。
ナナコの来る間に、カノンはミュウの大辞典を開くと(といってもどのページにも記述はなく、真っ白な本であるのだが)掌をかざし、精神を研ぎ澄まさせ集中して呪文を唱えた。


「汝、我の呼応に応じて、我の願いを具現化せよ!」
「失った時のグリモワール!!」


そう叫ぶや否や、真っ白なページに黒いインクで文字が浮かび上がる。
ミュウの大辞典はカノンの魔力に反応し、その声に応じて時点に収容された、求めている記述を即座に検索できるのだ。失った時のグリモワールとは、カノンのお気に入りの呪文、とりわけ戦闘に用いるための呪文が多く書き込まれている、カノン自身の手によって編纂したカノンオリジナルの魔導書である。その魔導書を文字の媒体として圧縮し、ミュウの大辞典へと組みこんでいるのだ。


「お嬢様、お持ちしました!」


それと同時にナナコが自身の体よりも大きい魔導書を両腕に抱えて走り寄ってくる。ありがとう、と一言ナナコに言うともってきた魔導書を受け取り、禁書の間に施してある結界の頁(ページ)を開いた。


「星界魔法の結界か・・・。これだけでもかなり頑丈のはずだけど、いささか不安ではあるわね。」


星界魔法とは、星霊(せいれい)-星の精-(つまり星座や惑星などの)の力を行使することで用いられる大魔法である。星の精との交信にすら膨大な魔力を必要とし、その魔法の行使には力の強い魔法使いが多数協力し、魔力をねん出することで初めて使用ができる、強力な魔法群だ。星霊それぞれと契約することで魔法の力が得られる、まさに星の数だけバリエーションがある魔法なのである。カノンはたいていそれを一人で交信・契約し、行使する。


「オリオンベルトの封印陣。4つの星でつくられた結界を3つの星で形成された、閂(かんぬき)で施錠を施したものですね。たいていの魔法使いではこの結界を突破することは困難だと思いますけど・・・。」


たしかにナナコの言うとおり。たいていの魔法使いではこの強力な結界を突破することは不可能である。それだけ使用する魔力が膨大であるのだ。


「確かにね・・・。でも嫌な予感がするの。この結界に時操術をかけて固定するわ。」


「かしこまりました。」



カノンは禁書の間の扉の前に向かうと、カノンの魔導書を開き、該当するページを開き、精神を集中させる。


「変化の拒絶、永久(とわ)の停滞。汝を時の牢獄に閉じ込め、現世から隔離する!」


「時の精よ、我の呼びかけに応じ、対象の刹那さえも奪い取れ!」


「封印:刹那の否定」



時間の流れとは認識できぬほど短い時間の連続である。それはすなわち無限とも思える静止画の連続写真である。刹那の否定は対象-物でも人でもいい-に対して、現在の状態を現世から切りとり、変化を与えなくする魔法である。刹那の否定をかけられたものは時を切り取られ、永遠に停滞し変化することが許されなくなる。カノンが図書館全体にかけてしまった、時のよどみの魔法とは異なるものだ。


「お疲れさまでした。」


ナナコがすりより、カノンに持ってきたタオルを手渡す。
時の魔法を行使するのは久々であるが、カノンは顔色一つ変えずにやってのけた。


「ありがとう、緊張してるせいか体が固いわ。でも、とりあえずこれで大丈夫のはず。」


タオルを受け取り額の汗をぬぐう。玉のような汗がタオルに吸い込まれていく。


「二重結界ですもの。たいていの魔法使いはあきらめてでていきますよ。」


館長室の扉が開き、そこからシャイナの姿が現れる。
カノンのゆっくりとした歩みで近づくと、シャイナはカノンにいった。


「その男が狙っているのはここの間だけど、一応他の禁書の間の結界も強化しておいたから。後は万が一侵入してきた男をあなたが迎え撃ちなさい。」


「おばあちゃん、ありがとう!」


カノンがシャイナの懐に飛び込む。老齢ながら数ある禁書の間の封印を同じ時間で、すべての封印を強化したシャイナもさすがといったところだろうか。シャイナは飛び込んできたカノンを強く抱きしめ返すと、頭をぽんぽんと優しく叩き、カノンの緊張を少しでも取り除いてやろうとした。






外で地獄の番犬と男との戦いは、この最中も続けられていた。
カノンとシャイナの予想とは裏腹に・・・。
kirakira
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00:23:40
管理人室のドアが勢いよく開いた。その音の後を追うように、バタバタとスリッパの音が駆け込んできた。
すでにベッドに入り、読書鏡をかけながらうとうとと読書をしていたシャイナの眠気は明日のかなたへと吹き飛ばされてしまった。


「どうしたんだい?カノン。そんなにあわてて。」


眠そうな目をこすりながら、読書鏡を外し、手にした本をランプのそばに置いた。
先ほどまで熱気を吐いていたストーブのおかげか、管理人室はほどよく温かい。ベッドのそばにあるランプが、薄くやさしく部屋全体を照らしだし、2つの人影が壁にくっきりと映し出されていた。
小さな影法師がベッドの上の少し大きな影法師に抱きついた。1つになった影法師は小さいほうの頭と思しき個所をやさしく手でなでているようだった。


「どうしたんだい?震えているじゃないか。」


小さな影法師の主が大きな影法師の主の顔を見上げた。シャイナはそれをにこりとほほえみかけて、その不安でいっぱいの顔を緩めてあげた。


「今、変なやつが来たの。全身黒づくめの変なやつ。」


強盗かい?とそっと優しく震える小さな体に問いかける。実年齢は108つとはいえ、カノンの中身は8歳のままなのだ。多くの本を読み、多くの知識を身につけ、多くの世界を本の上で知ったとしても、カノンはまだまだあどけない。世の中の8歳よりも大人びて感じられても、それはあくまで知識量からくる自信ゆえであり、中身はまだまだ甘えたい盛りなのである。


「違う!そいつ、禁書の部屋を知ってたの!中の本の番号まで言い当てたわ!」


不安で満ちた表情が、ある種の興奮で満たされた。しょげていた鼻孔は開き、真っ白い頬は紅色に染め上がる。うるんだ瞳は赤く腫れて、熱い雫が垂れる。その表情を見たシャイナは、カノンが落ち着いて、安心できるようにより一層やさしく微笑みかけた。ポンポンと頭は軽く叩いてあげると、


「あったことを全部話してごらん?」


とやさしく一言。いつもと変わらぬ祖母の様子に、カノンはいささか安心したようだった。事の顛末を8歳にしては上手に事細かく話すと、シャイナは落ち着いてこういった。


「なるほどねぇ・・・禁書を。」


ランプのそばに置いてある、普段つかっている眼鏡をかけると部屋の明かりをつけてベッドから起き上った。
作業用の机だろうか、机の上には羽根ペンがさしてあるインクのボトルや蝋を溶かす簡単なこてなどが無造作に置いてある。カノンの手をひいて小さな椅子にかけさせて、シャイナ自身もとなりの、自分の椅子に腰かけると机の隣にある本棚から21と背表紙にかかれた、非常に分厚い本を前に置いた。


「えーっと・・・k-3068~3070・・・。これか。」


どうやらこの本は禁書の部屋に管理されている禁書を部屋番号ごとに分けて管理し、記録しておくための本のようだった。いわば部屋ごとの禁書リストである。真っ黒の背表紙には金色の字で21と文字と記されており、その下には本の管理番号と思しき記号と数字が書きしるされていた。少し茶色く変色したページからは年季が感じられる。ほこりをかぶっている様子を見るとあまり頻繁に使っているものでもないようだ。



「昨日の本、今日の本、明日の本・・・3つの禁忌を狙っているのね。」

「3つの禁忌?」

「そう、3つの禁忌」



シャイナによると、それは作者不明の3冊の文書であり、言い伝えでは悪魔が余興で書いたとも、狂気の魔道士が晩年書きしるしたものとされているが、出所は不明なものだそうだ。それぞれが時間を操り、自在に時間軸に干渉できる、高等な時操術(じそうじゅつ)が書きしるされているものだ。3つの本はそれぞれが干渉できる時間の領域が異なっており、過去に干渉できるものが昨日の本。現在に干渉できるものが今日の本、未来に干渉できるものが明日の本である。


「私が使った時操術(じそうじゅつ)とは違うの?」


身を乗り出して、分厚い本に注がれていた視線がシャイナの顔に向けられた。孫娘の興味本位とその知識への貪欲さを知っているシャイナは少し躊躇しているようだった。この3冊の禁書の中身に振れることすら危険な行為なのだ。それでもその本の内容と危険性を説明しなくてはならないこの状況に、しぶしぶと重い口を開いた。


「うーん、少し違うねぇ。説明してあげようかしら。」


シャイナによれば時操術(じそうじゅつ)とは時の奔流を操るためのもの、ということだ。シャイナは時の概念をよく川の流れに例えて説明する。激しい激流を流れるいかだが私たちの今現在存在している現在であり、その上流が過去、下流が未来となる。いかだは上流から下流へと絶えず押し流され、私たちの時間は過去から未来へと流れていくのだ。時操術とはこの時の流れに干渉し、いかだを過去へと押し戻したり、未来への流れをより早いものへと加速させたり、ながれを緩やかにするものである。
カノンの用いた時操術(じそうじゅつ)がなぜ永遠性を図書館に作り出してしまったかというのはこの時の奔流にある種のよどみを作り出してしまったからだ。シャイナやカノン、ナナコ、それに図書館を含む地域一帯をのせた「いかだ」はその生み出されてしまった時のよどみに取り残されて、同じところをぐるぐると廻るようになってしまったのだ。それゆえ、視覚的には季節的な変化や時間の流れが感じられても時間軸からみた時の流れは経過しておらず、永遠の中をさまようことになっているのだ。
ここで3つの禁忌と時操術の基礎との大きな違いであるが、「いかだ」の行き先にすら干渉できるかどうか、という点によるところが大きい。つまり、カノンの用いた時操術は今まで起きた過去に戻れたり、これから起きるべく未来に早く行けたりするものだが、3つの禁忌は「忘れたい過去を抹消し、新しい過去に書き換え」たり、「今現在の自分の周りの存在を任意に抹消した」り、「起きるべく未来を変更し、自分の望む未来に置換できた」りできるのだ。要するに自分の乗っているいかだをコントロールし、行きたい場所に自由に行くことができてしまうのだ。


「つまり、この本があれば、自分ののぞむ世界が手に入るってこと?」


管理書に書かれた禁書の性質と特徴を熱心に読む孫娘から投げかけられた質問に、そういうことだねぇと一言返す。ものわかりのいい孫娘に感心しながらも、その知識に貪欲な姿勢と物分かりがよすぎる孫娘にいささかの危機感と不安を感じるシャイナではあったが、孫娘の成長に喜ぶ気持ちも大きく複雑であった。少し甘やかしすぎるのかしら・・・と自分の教育方針をすこし省みるシャイナであったが、孫娘の愛らしさには勝てずその姿勢を崩せずにいた。まったくもって甘い保護者もあったものである。


「だったら、この3冊取られたら危ないじゃない!」


これらの話からこの答えが紡がれるのは必然であろう。
禁書自体の破棄がもっとも望ましい防衛策だと思う人間もいるだろう。禁書を破棄してしまえば、それらを使おうとする人間や魔法自体の存在が忘れ去られてしまうのだから。だが、人間の歴史が戦いの歴史であるのと同様に、魔法界の歴史も禁術の開発とそれに伴ったより安全で簡単な新術への応用が繰り返されることによって発展してきたのである。つまりは毒と薬は紙一重。禁断の術があるからこそ、そこに改良を加え、新たな魔法の余地が増えていくのである。それに禁書を今の時代破棄したとしても、今後そのような禁断の魔法が新たに創造されるとも限らない。毒をもって毒を制すという言葉が人間界にあるように、魔導書には同じ魔導書をもって戦えということばが魔法界にも存在する。つまりは同じような魔法が開発されてしまった場合に、対策を練るのにこれらの禁書は必要不可欠となるのだ。事実、カノンが用いた時操術(じそうじゅつ)もこれら3つの禁忌をひも解いて、改良されてできた魔法であるのだ。もっとも、いまでは時操術(じそうじゅつ)自体も禁書の仲間入りを果たしているわけだが・・・。


「それに・・・私これら3冊をまだ読んでないわ!」


魔導師たるもの、自分の読んでいない魔導書を見つけたら読みたくなるのは当然の性である。上に、カノンの趣味は禁書を読むこと、そんなカノンが自分の読んでいない禁書をみすみす奪われることを黙って見過ごすわけがなかった。


「この本は簡単には読むことができないようになっているのよ、カノン。今のあなたではまだその本の封を解くことすら難しいと思うわ。」


カノンの読みたいという欲望を当然察知していたシャイナは、3つの禁忌に施された厳重な封印についても説明した。今のカノンの力量では魔導書を開くことすらかなわぬという目測があったからだ。カノンの「物分かりのよさ」を巧みに利用して、読むことそれ自体が不可能であるということを説くことがカノンを禁書から遠ざけるもっともよい方法であると、シャイナは永遠とも呼べる付き合いの中で知っているのである。


「封印?普通の禁書と何が違うの!?」

「それはね、1冊の魔導書との契約に必要な魔力が膨大で、3冊同時に契約を行わないと魔導書の封が解けないようになってるのよ。それにね、封を解いても継続して魔力を3冊すべてに注ぎ込まないと、本の内容が隠されてしまうの。」


契約の種類については前述したとおりであるが、この3冊は上級契約に必要な魔力の最低値が極めて膨大である。カノンの持っている魔力もかなり膨大であるが、この3冊の契約に必要な量はそれをも上回る。
一人のふつうの魔法使いが生涯使える魔力を1とするとこの本1冊が要求する契約に必要な魔力は10である。カノンの使える現時点での魔力は、この基準でいえば5程度、カノンより長く生きたシャイナですら8程度なのである。つまり普通の魔法使いが30人束になってやっと契約の履行が行われる。古来ではこれらの書を読むために「魔法使い狩り」が行われ、30人の魔法使いをいけにえにして3冊をひも解くという、血ぬられた歴史をもつ。契約が行われても魔力が枯渇してしまい、魔導書を読む子おtができないからだ。そのうえに魔導書は絶えず契約者の魔力を要求するため、熟練の魔法使いを仮の契約者として契約させ、実際に本を読むのは別の魔法使い、という極めてねじまがった方法でこの本は使用されていたのだ。この本を読むにはそれだけ多くの犠牲がついて回り、魔法界きっての黒歴史であるのだ。だがそのねじ曲がった契約法ゆえに、契約自体が本の厳重な封となりえているのである。


「つまり、今の私じゃ読めないのか。」


管理書に書かれた3つの禁忌の説明をまじまじと眺めながら小さなため息をついて、小さな肩を落とす。いままで顔を覆っていた不安はもうどこかへとんでいってしまったようだ。代わりに、自分の興味のあることが自分の手の届かないことのもどかしさや残念さが表情からうかがえる。



「でも、この本とられちゃまずいでしょ?おばあちゃんは何か考えてるの?」



シャイナはにこりと笑うと別の、一冊の魔導書を取り出した。魔導書の背表紙には、暮らしに使い魔を-初級から上級まで- と魔法文字、いわゆる魔法使いが魔法を使うのに駆使する文字で書いてあった。要するに使い魔のカタログである。おもむろにページをぱらぱらと開くと、このあたりだったかねぇと目星をつけたのか


「我、汝との契約を所望する、いでよ、地獄の三つ首門番」


と詠唱すると、本のページが白く光り出す。シャイナを中心に紅蓮の魔法陣ができあがり、魔法陣がまばゆい光を放った。そのあまりのまぶしさに目を覆うカノンであったが、光が弱まり目が慣れてくるとカノンの目の前には、3つ首の番犬が姿を現した。その体はヒグマくらいあるだろうか、赤黒い毛に全身が覆われ、三つ首は汚くもよだれがたれている。目は赤く血走り、鼻は小さく、牙は大きく鋭くて口からその身を乗り出している。魔法使いの世界ではよく見る、使い魔との契約風景である。


「おぉ、久しぶりだな、シャイナのばあちゃん。息災だったか?」


召喚された使い魔が流暢に人語を話す。その口ぶりから、どうやらシャイナとは面識があるようだ。


「えぇ、あなたとは数十年前に契約を一度破棄したからそれ以来になるねぇ、ケルベロス。」


地獄の番犬の名前は魔法使いの世界も人の世界も変わらないようだ。


「そこのおちびの嬢ちゃんが時操術を暴走させて以来だな。それ以来来客がいなくなったとかでお役御免になったんだったな。」


真ん中の顔がカノンの顔を見ながら、げらげらと下品な笑い声をあげている。おちび・・・カノンはその一言にむくれっつらだった。小さな頬をぷくーっと膨らませながら、ケルベロスをにらみ返す。真ん中の首はその顔をにやにやと見つめていたが、シャイナのほうに顔を向けた。


「それで?今回は何のために呼びだされたんだい?お嬢ちゃんのお守なんて退屈な仕事は、まっぴらごめんだからな?」


シャイナから見て左の首が話す。どうやら番犬にたがわぬ戦闘向きの使い魔らしい。カノンを背中に乗せてお馬さんごっこをする気はさらさらないようだ。


「失礼ね!私はお守をしてもらうほど、子供じゃないわ!」


カノンが啖呵を切る。たしかに8歳の子供に対して、お馬さんごっこはいらないだろうか・・・。
ケルベロスが、おーこわ、とわざとらしく身震いをするとシャイナのほうに向きなおる。


「どうやら、お守が仕事のようじゃないようだな?」

「えぇ、そうなのよ。話せば長くなるのだけど、図書館に警備が必要になってねぇ・・・。」


シャイナがことのいきさつを簡単に話すと、ケルベロスは納得したようで、


「おおし、わかった。この図書館は24時間、何人たりとも怪しい奴はいれないぜ!門番は俺の得意とすることだ、大船に乗った気で安心してくれよ。」


と、自信ありげにそういった。じゃあ、さっそく今晩からよろしくお願いね?とケルベロスに頼むと応と気持ちのいい一つ返事で玄関のほうへ向かって言った。


「彼に任せておけば24時間、とりあえずは安心ね。」


手にした魔導書を握り、カノンのほうへにこりとやさしい笑顔を向けた。
ケルベロスに小馬鹿にされてむくれっつらになっていたカノンは、自分に向けられた笑顔に気づくと居住まいが悪いのか、顔をぷいとさせて俯きぎみで床に視線を落とした。


「あぁ、報酬の件だが、魔力に加えて、ばあちゃん特製のドッグフー・・・」


玄関のほうからひょっこり顔をのぞかせる3つの首がシャイナに対して少し恥ずかしいように、報酬の相談をしている。地獄の番犬もドッグフードを食べるのだろうか、さっきまでの態度とは打って変わって少しもじもじした様子でゆっくりした口調で一言。確かに地獄の番犬と恐れられている怪物がドッグフードとはイメージがガラガラと音を立てて崩れてしまいそうだ。



「はいはい、腕によりをかけて作ってあげるわ」



シャイナはカノンに向けていた視線を背中に投げかけられた言葉のほうへと投げ返し、魔導書を持った腕を腕まくりすると少し頼りない力こぶを作って見せた。それを見たケルベロスは安心したのか、にこりと笑うと玄関先へと歩みを返していった。



寒い冬の日、外は紅色の雪で染まり上がる。
雪の寒さから来る凍えは少しゆるんだようだが、カノンを襲っていた悪い寒さはぬぐい切れずにいた。
事件が起こるのはするのは、この日から1週間と3時間24分後の話である・・・。
kirakira
kirakira
01:08:26
どうもこんにちは、ナノカです。
はい、とうとうはじめてみました。はじめちゃいました、ブログ小説。
読み返せば読み返すほど、自分の文章力のつたなさに切なくなっちゃいますね==;
とりあえずその場の雰囲気だけでも感じてもらえたら…と思いますがどうなんでしょーね=w=


ところで。
小説を書いているにあてって、よせられる質問疑問、意見など。
これらが一部の熱心な読者様から私に寄せられております。熱心に読んでくださるのは書き手としては感無量なので、可能な限りお答えさせていただこうと思ってます。私の説明不足もあるのでね、補足説明といったスタンスでいけたらいいなーとwどうせなら物語の設定を踏襲して、カノンとナナコに答えてもらえおうという(痛い)企画にしちゃいます(笑)わからないことや意見、設定の不可解さなどは私に直接いってもらうか、コメントに残してもらえればある程度たまったら時間が許す限り答えていこうと思いますwということで、どしどしお便り、お寄せください^^

んでは、タッチ交代でカノンに任せていきましょう。
あ、ゆみしょこら様からまわしていただいた(痛)バトンの消化は後日でということでw私も書くの楽しみにしてるんだよね~=w=
この企画は文章ではなく、会話形式のわかりやすさを重視した内容になっております。体がかゆくなるかと存じますが、液体ムヒなどをご用意してからご覧ください^^


「お嬢様ー!物語についての質問疑問意見がたくさん届いてますよ」

「あっそ。」

「あっそ・・・って。せっかく読んでくださっているのに無下に扱ってよろしいのですか?><」

「えー・・・、今日はこの新しく来た魔導書を読まなくちゃいけないのに・・・。」

「そんなこと言わずに、せっかく面白い企画になりそうですしやっていきましょうよぅ^^」

「えぇ・・・仕方ないわね・・・。少しだけよ?読書の邪魔にならない程度よ?==;」

「はい、それでいいですから!(最初は」

「何か余計なこといった?」

「いいえ、何もw」

「本当?」

「そんなことより、最初のお便りはこちらです。」


Q1.文章長いよ!よくこんなの書けたね・・・。

A.あら、こんな文章の情報量は大したことなくてよ?私の読んでいる魔導書の何百分の1かしら・・・。
 とりあえず物語は文章で伝える形式で行こうと思っているので、毎回この程度の文章量になるわね。こちらとしても一生懸命書くのでぜひ、最後まで読んでいただけたらと思っているわ。まぁ・・・作者自身が途中でだれる、という可能性は捨てきれないけどね=w=



Q2.難しい漢字が多くて読めないんですが・・・。
  
A.そうね・・・、1章の1を読み返してみると結構難しい漢字を使っちゃった感があるわね・・・。そこは大いに反省すべき点であり、せっかくもらったいい意見なので難しい漢字には極力振り仮名を振るなり、ひらがなで書くなりの工夫はしていこうと思ってます。 
 
 1章の1で難しい漢字は残滓(ざんし)や生垣(いけがき)とかかしらね。
あと寄せられた意見としては、時操術(じそうじゅつ)など物語独特の漢字が読めない!という意見をいただいたのでその辺も改善していこうと思ってます。

あ、それと作者の誤字脱字は仕様よ!あの人文章校正を行わないから誤字脱字がひどいのよね・・・。(すいません、テヘ
その辺は心の目補正をもって読んでもらえるとこちらとしても助かるわ。作者は私のほうから〆ておきます(ぎゃあああ


Q3.時間が止まっているのになんで季節が変わるの?

A.・・・。設定の細かいところを突いてくる、結構きつい質問ね・・・。作者の粗がでるところだわ・・・。
 この設定を理解するには時操術(じそうじゅつ)がなんたるかや作者の時間に対する概念を理解しないと、伝えるのが難しい部分ではあると思うけど、Myuiの大辞典を参考に、簡単に説明させてもらうわね。

まず時間とは
過去から現在、未来にかけて流れていく時間軸にそった、不可逆的な流れのこと。

わかりやすく説明すると、私たちはいかだで川を下っていると考えてもらえればわかりやすいと思うわ。私たちのいかだの位置が現在であり、上流が過去、下流が未来。いかだにはエンジンもなにもついてないから、一方的に流されるだけでいかだにのっている私たちは過去にさかのぼることはできず、未来に流れていく(進んでいく)しかないってことね。
ここで登場した時操術は川の流れの速さを変えたり、逆流させたりする魔法ね。川の流れを早くすれば当然いかだは早く流れて年をとるのが速くなり、いかだを逆流させれば過去にも戻れるってわけ。
だけど、私は未熟だったからこの時操術を完璧に操ることができずに暴走させてしまった。この暴走させてしまった時操術はこの川(時)の流れによどみを作ってしまった、と考えてちょうだい。
よどみに入った私たちののっているいかだは川の流れから取り残されてしまい、同じところをぐるぐるしてしまうわけ。つまり、時は流れているように思えるけど結局は同じところをぐるぐるするだけだから、視覚的には季節が移ろうように思えても、時間軸の観点からとらえると時間は経過していないわけ。一般の人は普通に時間軸に沿って時が経過していくわけだから、時間が停滞している私たちに干渉することはできない、ということ自分たちのいかだを私たちのよどみに偶然入らせてしまったのかもしれないわね。その辺はアバウトにとらえてほしいわ==;あの男は時操術の心得があって、私たちのよどみに自分を侵入させたから、私たちの図書館に意図的に入ることができたのかもしれないわね。


理解していただけたかしら?



「お便りは以上になります。お疲れさまでした♪」

「ふぅ・・・、こんな感じでざっくばらんに答えていけばいいのね。」

「はい、十分すぎますw相手にうまく伝わっているといいですね!」

「んじゃ、私は読書にもどるから。あ、今日のおやつはアールグレイでお願いね。それとモンブランが食べたいの。」

「はぃはぃ。腕によりをかけていれさせていただきますね♪」





・・・ということだそうです。ゆみしょこらさま^^
ご理解していただけたでしょうか。最後の疑問はいい質問だったと作者の私も感じてます。でもこんな感じで理解していただけたらわかりやすいんじゃないでしょーかwあんまり突っ込んで聞かれると作者のぼろがでますので、その辺はアバーウトにとらえてくれれば、とおもいますw

それでは続編にゆるりとご期待くださいw
kirakira
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プロフィール

ナノカ

Author:ナノカ
メイプルストーリー楓サバで活動中。でも今はまったりのんびりマイペース。
思いついたこと、気ままに徒然なるままに表現していこうと思います。


キャラクター:
oOナノ力Oo(200銃)
恋枝てるる(104?メカニック)
-Canon- (??エヴァン)

相互リンクはいつでもどこでも受付中♪
気軽に申し出てくれると喜びます☆

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